従業員エンゲージメントとは?高めるメリットと7つの方法

経営

従業員エンゲージメントとは?高めるメリットと7つの方法

テレワークの実施が浸透し、従業員間のコミュニケーションは減少しました。これにより、「従業員エンゲージメント」が低下している傾向です。従業員エンゲージメントが低下すると結果的に顧客満足度の低下にもつながってしまうため、常に何らかの施策を打ち出すことが不可欠です。

また、従業員エンゲージメント向上は人手不足を解消する手立てにもなるでしょう。そのため、多くの企業では従業員エンゲージメントの重要性が高まっています。

そこで今回は、従業員エンゲージメントの概要から、高いことによるメリット・高めるための方法まで徹底的に解説します。「従業員エンゲージメント強化の重要性が知りたい」「自社の従業員エンゲージメントを高めたい」という企業担当者・管理職の人は、ぜひ参考にしてください。

1.従業員エンゲージメントとは?

従業員エンゲージメントを理解するためには、まず「エンゲージメント」の理解が必要です。エンゲージメントとは、使用シーンによって細かに意味合いが異なるものの、基本的に「深い関係性・関わり合い」を指します。

つまり、従業員エンゲージメントとは「従業員が自身の働く企業に対する愛着心」ということです。「会社に貢献したい」という考えをもってくれる社員は、従業員エンゲージメントの高い貴重な人材と言えるでしょう。

1-1.従業員エンゲージメントが重視されている理由

従業員エンゲージメントという考え方は、1990年代にアメリカで生まれました。そして、日本で従業員エンゲージメントが重視されるようになったのは2010年代です。それから10年以上の年月が経った近年においても、従業員エンゲージメントが多くの企業で重視されている理由には、下記が挙げられます。

〇人材の流動化が進んでいるため

ひと昔前の日本では終身雇用の文化が色濃く、従業員が定期的に転職を検討する必要性がありませんでした。しかし、従来の労働観が薄れ、転職をすることが基本という時代になった現在では人材の流動化が危惧されており、企業としては「いかに優秀な人材を残すか」が重要となっています。帰属意識の高い社員は退職リスクも低いため、従業員エンゲージメントの向上に力を入れる企業が増加しました。

〇主体的かつクリエイティブな人材を求めるため

近年では、AI技術の発展や浸透、さらに消費者のニーズの多様化など、変動の激しい時代となっています。先行き不透明な状況において企業が成長し続けるためには、従業員個人のキャリア自律が求められます。

従業員エンゲージメントの高い社員は、与えられたタスクを実行するだけでなく、自らイノベーションを発想し、主体的に動くこともできるでしょう。社員のキャリア自律を促すため・企業の成長スピードを高めるためにも、企業は従業員エンゲージメントを重視しなければなりません。

1-2.従業員エンゲージメントの似た言葉の違い

従業員エンゲージメントに似た言葉として、「従業員満足度」「コミットメント」「ロイヤリティ」の3つが挙げられます。下記に、それぞれの違いを紹介します。

〇従業員満足度

従業員満足度とは、「従業員が自身の働く会社の福利厚生・待遇・人間関係などあらゆる要素を総合した居心地のよさ」を表します。従業員満足度が高ければモチベーションや従業員エンゲージメントに対してよい影響を与えるものの、業績に直接的に結び付くことはありません。

〇コミットメント

コミットメントとは、会社から設定・要求された行動や目標に対し、社員がきちんと応えている状態を指します。責任感をもって従事するという点においては従業員エンゲージメントと同様ですが、コミットメントは企業が従業員に対して与えた約束への行動で判断されるため、自発的な行動を評価点とするエンゲージメントとは異なります。

〇従業員ロイヤルティ

従業員ロイヤルティとは、企業に対する従業員の忠誠心・帰属意識を指します。社員の従業員ロイヤルティの高さが企業貢献につながるケースもありますが、忠誠心が高いことでかえって明確な主従関係が生まれ、「指示待ち人間」となってしまうケースもあります。従業員自身の発想力・判断力も評価点となっているか否かが、従業員エンゲージメントと大きく異なる部分です。

2.日本は海外と比べても従業員エンゲージメントが低い?

2017年、米ギャラップ社が139か国を対象に実施した調査によると、日本は従業員エンゲージメントの高い社員の割合が6%/139か国中132位という結果となっていました。

従業員エンゲージメントの高い社員の割合
日本6%
アメリカ/カナダ31%
ラテンアメリカ27%
オーストラリア/ニュージーランド14%

出典:経済産業省「参考資料集」

世界最低水準とも言える結果から、日本は諸外国と比較しても従業員エンゲージメントが低いことが分かります。

2-1.日本の従業員エンゲージメントが低い理由

諸外国と比較しても、日本企業の従業員エンゲージメントが非常に低い理由としては、下記が挙げられます。

〇「年功序列」文化の色濃い人事評価制度

日本では、未だに多くの企業が「年齢が高い・勤続年数が長い従業員ほど、自動的に好待遇となる」という年功序列文化の色濃い人事評価を実施しています。成果を上げているにもかかわらず、自身より会社に貢献していない先輩のほうがよい評価を受けているという事実は、優秀な社員のモチベーション低下に大きくつながってしまうため、従業員エンゲージメントの向上はまったく期待できません。それどころか、正当ではない人事評価は退職リスクの向上にもつながるでしょう。

〇社員間のコミュニケーション不足

従業員エンゲージメントを向上させるためには、「仲間意識」も重要な要素です。仲間意識を育てるためには、社員間でのコミュニケーションが欠かせません。しかし日本では、仕事以外でのコミュニケーションは一切とらないという企業も多くないことが事実です。円滑なコミュニケーションのとれていない企業は仲間意識に欠け、従業員エンゲージメント指数も低下してしまいます。

3.従業員エンゲージメントが高いことによるメリット

従業員エンゲージメントが高い企業は、優秀な人材を残せるほかにもさまざまなメリットを受けられます。

従業員エンゲージメントを高めるメリット4つ
  • 業績がアップする
  • 離職率が低下する
  • チャレンジ精神が生まれる
  • 顧客満足度が高まる

ここからは、それぞれのメリットについて詳しく紹介します。

3-1.業績がアップする

従業員エンゲージメントが高まると、会社に貢献したいという意欲の高い社員が増加します。「組織として、目標・目的を達成するにはどうすればよいのか」などのポジティブな意見が生まれやすくなり、職場の活性化にもつながるでしょう。

「命じられた業務にただあたっているだけ」「タスクをこなしているだけ」という気持ちで働くことがなくなり、各従業員が個人の仕事に生産的に取り組むことが可能です。結果として、業績アップにつながる点が大きなメリットと言えるでしょう。

3-2.離職率が低下する

「仕事にやりがいを感じない」「努力して成果を上げても、正当な評価を得られない」という不満は、やがて離職につながります。企業側が何らかの施策を行い、従業員エンゲージメントの向上に徹することで、社員は自身の不満が解消され転職を検討する機会も減少するでしょう。

組織で一丸となって目標達成に向かっているという一体感は、社内のモチベーションを高めたり、活気をもたらしたりする要素にもなり得ます。結果として、優秀な人材のみならず伸びしろのある人材の離職率低下はおろか、定着率のアップにつながるでしょう。

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3-3.チャレンジ精神が生まれる

従業員エンゲージメントの高い企業は、「社員が自ら発想し、イノベーションを起こす」という雰囲気が定着している企業とも言えます。

「上司に従わなければよい評価を得られない」という固定観念のもと働くことがないため、たとえ困難な課題に直面した場合であっても、自ずと従業員のチャレンジ精神が生まれるという点は大きなメリットでしょう。従業員がチャレンジ精神を発揮することで、企業全体のパフォーマンス向上にもつながります。

3-4.顧客満足度が高まる

従業員エンゲージメントの高い企業で働く従業員は、自身の仕事にこだわりを十分に発揮しやすく、やりがい・意義も感じられている状態です。前向きに業務に取り組めていることから、顧客に提供する商品やサービスの品質も自ずと高く、かつ安定している傾向にあります。

結果として、安定した高い品質の商品やサービスを利用する顧客は満足度が向上し、企業全体の信頼度をより高めることもできるでしょう。

4.従業員エンゲージメントを高める方法7選

従業員エンゲージメントの高低は、下記8つの領域で決定されます。

(1)組織文化
(2)やりがい
(3)成長
(4)認知度
(5)人間関係
(6)働き方・環境
(7)人事評価
(8)給与・報酬

(1)~(4)の領域は「動機づけ要因」と呼ばれ、主に従業員の仕事に対するモチベーションを左右する要素です。そして(5)~(8)の領域は「衛生要因」と呼ばれ、これらが満足・納得のいくものでなければ従業員の会社に対する不満を感じる要因となります。エンゲージメントを高めるためには、上記の8領域のすべてにおいて、何らかの施策を行う必要があるでしょう。

ここからは、各領域に対応した従業員エンゲージメントを高める方法を紹介します。

4-1.社内コミュニケーションの活性化

「同じ会社でともに働くほかの社員について、よく知っていない・信頼できない」という状況は、企業に対する愛着がわかず帰属意識も高まりません。そのため、社内コミュニケーションを活性化させて、まずは従業員同士の関係性をより深いものにすることが大切です。

社内コミュニケーションを活性化させるには、業務上の接点が少ない従業員同士でのシャッフルランチを開催したり、定期的なランチミーティングを実施したりするとよいでしょう。また、近年ではテレワークが中心となる企業も多いため、社内SNSの活用やオンラインでのランチミーティングなどを積極的に開催することも有効です。

4-2.適切な人事評価・フィードバックの実施

前述の通り、「正当な人事評価を受けられない」と感じた従業員は、仕事に対するモチベーションが低下し、結果として企業への貢献度も低まってしまいます。従業員エンゲージメントを着実に向上させるためには、まず人事評価が適切なものとなっているかを見直す必要があるでしょう。公平性のない人事評価となっていた場合は、即座に改善する必要があります。

また、正当な人事評価の制度化に加えて、従業員へのフィードバックを実施することも重要です。フィードバックの内容は、「あの時にしていたこういう行動はとてもよかった」など、前向きなほうが従業員の自発性を高めやすいことも覚えておきましょう。

4-3.企業理念・ビジョンの浸透

従業員の帰属意識を高め、「企業に貢献したい」と思わせるためには、企業理念やビジョンを明確にしたうえですべての従業員に浸透させることが大切と言えます。これらを浸透させることで、従業員は「自身の業務が企業や社会にいかに貢献しているのか、顧客にどのような価値を提供できているのか」をしっかりと実感できるためです。

企業理念・ビジョンをスムーズに浸透させるためには、定期的にキックオフミーティングを開催して従業員にミッションやバリューを周知したり、周知したミッションをどのように意識してかつ普段の業務に落とし込めているかを従業員に言語化させたりするとよいでしょう。

4-4.承認・称賛の文化形成

部下の意見に耳を傾けない上司のいるような企業では、従業員エンゲージメントの向上が期待できません。企業への貢献意欲の高さはもちろん、自発的な行動のできる従業員を育てるためには、なるべく「承認してもらえる環境」を構築することが重要です。部下の意見にもしっかりと耳を傾け、適切な判断・対応のできる企業は、従業員から「信頼・尊重してもらっている」と感じてもらうことができるでしょう。

また、努力を続けて成果を上げた従業員に対しては、称賛することも大切です。従業員の自尊心が高まることで、企業へのさらなる貢献意欲につながるでしょう。結果として、従業員エンゲージメントの高まりが期待できます。

4-5.キャリア開発の支援

自らの成長や自信は、従業員の「企業への貢献意欲」が高まる要素です。従業員自身が成長したことを把握できれば、今後の業務における自信にもつながり、「これからも会社に貢献したい」という気持ちが芽生えるでしょう。

従業員の成長や自信の獲得につなげるためにも、企業側はキャリア開発を支援することが重要です。例えば階層・役職別のキャリア研修を実施し、従業員に今後のキャリアデザインの設計を促すなど、支援の方法は多岐にわたります。キャリア開発支援が充実している企業は、「従業員一人ひとりを大切に思っている」という印象ももたれるでしょう。

4-6.職場環境の改善

従業員が気持ちよく働けるよう、福利厚生や給与の改善を第一に考える企業は少なくありません。確かに、単純にこのような職場環境の改善で従業員の満足度を高めることは可能ですが、従業員エンゲージメントに直接結び付く可能性は極めて低いと言えます。

従業員エンゲージメントの向上を目的に職場環境を改善するなら、ワークライフバランスに注力し、従業員のさまざまなニーズに合わせて福利厚生や制度、働き方を改善することが大切です。

4-7.定期的な従業員エンゲージメントの調査

従業員エンゲージメントは、目に見えて把握できるものではありません。加えて、従業員エンゲージメントを高めるための施策は、長期間継続して実施する取り組みでもあります。そのため、定期的な従業員エンゲージメントの調査は欠かせません。エンゲージメント調査の定期的な実施によって、これまで実施してきたエンゲージメント向上への施策効果を可視化できます。

従業員エンゲージメント調査は、匿名での質問・アンケート形式で行うことが基本です。適切な回答を得られるよう、「なぜこの調査を行うのか」をあらかじめ明確にすることも忘れないでおきましょう。

また、ただ調査を行うだけでは意味がありません。調査データから、どのような施策に最も効果があったのか、反対になかったのかを分析し、よりよい効果を生み出せるよう試行錯誤することが重要です。

5.従業員エンゲージメントの事例2選

ここまで、従業員エンゲージメントの概要や従業員エンゲージメントを高めるための方法を解説しました。最後に、企業による従業員エンゲージメントの事例を2つ紹介します。

〇株式会社フィードフォース

「株式会社フィードフォース」は、“「働く」を豊かにする。”をミッションに掲げ、あらゆる企業に対して生産性向上の実現に向けたサービスを提供するIT企業です。株式会社フィードフォースでは、従業員の「内発的動機づけ」が重要であるという考え方のもと、従業員エンゲージメントの向上に取り組みました。1on1や9ブロックによる細かな人事制度、OKRなどの取り組みを実施し、従業員が自分の意思・判断で業務に取り組める環境づくりを大切にしています。

参考:https://www.hito-link.jp/media/interview/feedforce

〇面白法人カヤック

「面白法人カヤック」は、社名の通り“従業員が面白がって働くこと”を大切に、クリエイターができる幅広い事業を展開する企業です。面白法人カヤックでは、従業員エンゲージメントを高めるための取り組みとして、「サイコロ給」「スマイル給」という給与システムを導入しています。

サイコロ給は「サイコロで出た目の数により変動するちょっとした賞与が支給されるシステム」で、スマイル給は「長所や評価点を記載した支給額0円の報酬」です。毎月ランダムに、1人の従業員の給与明細に記載します。これらのようなユニークな取り組みを実施しながら、社員がより楽しく働ける・より自発的に行動できるような環境づくりを心がけています。

参考:https://www.kayac.com/vision/dice

まとめ

従業員エンゲージメントは、従業員が自身の働く企業に対する愛着心・貢献意欲を表します。従業員のエンゲージメントレベルが低ければ、結果として業績の向上が見込めなくなるだけでなく、離職率のアップにもつながってしまうため、エンゲージメント向上のための施策は欠かせません。

従業員エンゲージメントを高めるためには、社内コミュニケーションを活性化させたり、適切な人事評価制度を設けたりするなど、さまざまな取り組みを実施する必要があります。これらは長期間にわたり継続して実施することとなるため、エンゲージメント調査のための従業員サーベイを定期的に実施したうえで、効果測定・改善を繰り返すようにしましょう。

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