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事業承継とは?種類・進め方・4つの相談先・事例などを一挙紹介
経営者が自社を長期的に成長させるために実施する制度の1つに、「事業承継」があります。事業承継は、進め方がある程度決まっており、実際に行う場合は事前に理解することが大切です。リスクもあるため、メリットとデメリットの両方を踏まえて、実施を検討する必要もあります。
当記事では、事業承継の概要やリスク回避の方法、進め方などを分かりやすく解説します。事業承継の相談先や事例など、実施する場合に必要な情報も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
1.事業承継とは?
事業承継とは、これまで培ってきた「人(経営権)」「資産」「知的資産」を引き継ぐことです。単に経営者を交代するのではなく、経営に関連するさまざまな要素を引き継ぎ、後継者が安定した経営を続けられるようにすることが事業承継です。
事業承継と類似した言葉に「事業継承」がありますが、両者は明確に異なる意味を持ちます。事業承継は、抽象的な内容のものを引き継ぐ際に使われる一方で、事業継承は、権利や財産といった具体的なものを引き継ぐ際に使用する言葉です。
1-1.事業承継が行われる理由
事業承継が行われる背景には、下記のようなさまざまな理由があります。
●中小企業の多様化
中小企業は、日本企業の約99%を占めており、経済を支えている存在です。生活や働き方の多様化に伴い、近年の中小企業には、「グローバルな展開」や「地域の生活・コミュニティの下支え」などのさまざまな役割が求められています。経済を安定的に発展させていくために、事業承継により企業の成長を継続させることは重要になっています。
●経営者の高齢化進行
少子高齢化の進行に比例するように、経営者は全体的に高齢化が進んでいます。1990年の経営者年齢は54歳だったものの、右肩上がりで上昇を続け、2020年には60歳を超えました。高齢化が進むと、主に体力面の問題から、どうしても経営者は引退しなければなりません。そのため、事業承継により、次の世代に託す経営者が増加傾向です。
●顧客や取引先との関係維持
長年存続してきた企業は、顧客の生活に欠かせない存在となっており、取引先とも強固な関係性を構築しています。顧客の豊かな生活や、取引先と築き上げてきた信頼性を維持するために、事業承継による事業継続を図る場合もあります。
1-2.事業承継で引き継ぐもの
事業承継で引き継ぐものは、「人」「資産」「知的資産」の3つであり、具体的にはそれぞれ下記のとおりです。
人 | 事業承継において、「人」とは経営権を意味します。 |
---|---|
資産 | 資産とは、「株式」や「事業用資産」「資金」などが該当します。 |
知的資産 | 経営理念や経営ノウハウ、社内外からの信用などの無形資産が、知的資産です。 |
1-3.事業承継の種類
事業承継には、「親族内承継」「親族外承継」「M&A」「株式上場」の4種類があります。ここでは、種類ごとに概要やメリット・デメリットを紹介します。
親族内承継 | 経営者自身の子や甥・姪などの血縁関係がある人物に、事業承継を行うことです。関係者にも納得してもらいやすく、引き継ぎにあたっての費用面の負担が少ない点がメリットだと言えます。 一方で、後継者の資質や能力を考慮せずに事業承継を行った場合、経営状況が悪化してしまう可能性があります。後継者になりたい人物が複数おり、親族間でのトラブルが起きるケースもあるため注意が必要です。 |
---|---|
親族外承継 | 親族外承継は、既存従業員や役員に事業承継を行う制度です。「社内承継」「従業員承継」と言われることもあり、少子高齢化が進んでいる近年において増えています。 親族外承継のメリットは、自社のビジョンや風土を理解し、能力面でも相応しい人物を選べる点です。デメリットとしては、有償で自社株式を取得しなければいけないため、金銭面での負担が大きくなることが挙げられます。 |
M&A | M&A(合併と買収)は、「第三者承継」とも呼ばれるように、外部の第三者に事業承継を行う方法であり、多くの場合はマッチングサイトのような専門サービスを使って実施します。少子高齢化による後継者不足が顕著になっている近年において、注目を集めている手法です。 後継者候補の選択肢が増える一方で、希望に合う人物を探すための労力や費用の負担が重くなりやすいと言えます。 |
株式上場 | 自社の株式を上場させ、購入してもらう方法です。上場により自社の知名度が上がることに加え、資金調達もできるようになります。上場するには、厳正な審査をクリアする必要があるため、株式上場による事業承継は4種類の中でも特に難易度が高い方法です。 |
2.事業承継が持つリスクとは?
事業承継には、下記のようなリスクもあります。
●時間と労力がかかる
事業承継は、後継者探しや引き継ぐにあたっての育成など、完了させるまでに時間と労力がかかります。たとえば、経営者自身が親族外承継を望んだとしても、社内に理想的な候補者がいるとは限りません。最終的に、M&Aによる事業承継を実施せざるを得なくなる場合もあるでしょう。
また、事業再編などの大規模な変革が伴うケースもあります。時間と労力がかかる前提で、取り組みを始めることが大切です。
●後継者の資質が不足している
経営能力は、会社員として必要な能力と異なるため、いざ事業承継をした後に後継者の能力が不足しており、経営が傾いてしまうケースがあります。後継者を探す時点で資質を見極めることや、後継者教育を工夫することが重要です。
●人間関係のトラブルに発展する可能性がある
たとえば、親族外承継を行い従業員に事業承継を行った場合、納得していない他の従業員との人間関係が悪化してしまう可能性があります。人間関係のトラブルを防ぐためには、周囲の人間に納得を得られるような説明が必要です。
2-1.事業承継のリスクを回避する方法
事業承継のリスクは、工夫次第で避けることができます。リスク回避の方法としては、下記が代表的です。
●贈与税や相続税の猶予制度を活用する
「事業承継税制」を利用すれば、一定要件を満たした場合に、非上場会社の株式取得にあたっての贈与税・相続税が一部免除されます。「法人版」と「個人版」の2種類が用意されているため、個人事業者でも利用可能です。現在は特例措置が設けられており、一定期間内に特例承認計画を作成・提出すれば、実質全額免除になります。
●公的な助成金を利用する
国や自治体が運営している、事業承継向けの公的支援を利用する方法もあります。代表的な支援策の1つが、事業承継に関連する経費の一部を助成してもらえる、「事業承継・引継ぎ補助金」です。「経営革新」と「専門家活用」の2種類に分けられており、事業承継の状況に応じて利用できます。
公的な支援策は、基本的に無料で利用できるため、自社に合う内容があれば積極的に活用することがおすすめです。
3.【STEP別】事業承継の進め方
事業承継を効率的に進めるためには、進め方を事前に理解することが重要です。事業承継には「親族内承継」「親族外承継」「M&A」「株式上場」の4種類がありますが、どの方法を取っても自社を客観的に見て、把握・整理した上で進めていくことが重要です。
一般的に、事業承継は下記の流れに沿って進めましょう。
- 事業承継の必要性の認識
- 自社の現状整理
- 事業承継に向けた経営改善
- 事業承継計画の策定
- 事業承継の実行
1のステップに「事業承継の必要性の認識」があるように、まずは現状の見直しから始めることが大切です。ここでは、各ステップにおける取り組み内容や注意点などについて、具体的に解説します。
3-1.【STEP1】事業承継の必要性の認識
まずは、本当に事業承継を実施すべきかを吟味してください。資産は計画的に引き継ぐ必要があり、後継者が経営に慣れるまでにも一定の時間を要します。事業承継が完了するまで、5~10年かかると言われており、場合によっては10年以上の期間を要するため、強い意思を持って開始することが大切です。
事業承継の必要性を明確にしておかなければ、途中まで手続きを進めて中止し、費用や労力だけがかかるという事態にもなりかねません。事業承継を完了させたい年齢から逆算して、余裕を持って準備に取りかかりましょう。
3-2.【STEP2】自社の現状整理
事業承継を本格的に進めるにあたって、自社の現状を整理します。現状を整理することで、事業承継を成功させる上で、どのような課題を解決しなければならないのかが明確になるためです。課題を解決した状態で引き継ぐことで、後継者の負担が軽くなり、スムーズな事業承継につながります。
現状整理にあたっては、細かく「見える化」しながら整理していく方法がおすすめです。見える化とは、見えなかったものを意思とは無関係に「見える状態」にすることです。業績や自社の強み・弱み、引き継ぐ内容など、なるべく具体的に整理したほうが事業承継の展望が見えやすくなり、準備が効率的に進みます。
3-3.【STEP3】事業承継に向けた経営改善
現状整理にあたって明らかになった課題を、事業承継の実施に向けて1つずつ改善します。経営状態が良好な状態で事業承継を行うことが、引き継ぎ後の安定した経営につながるため、時間をかけて入念に改善を図ってください。
M&Aを実施する場合は、経営改善により、最適な後継者が見つかる可能性も高くなります。たとえば、業績が右肩下がりの企業よりも、右肩上がりの企業のほうが、「自分が引き継ぎたい」と考えてもらえるケースは多いでしょう。
これまで自社が持っていた強みはさらに磨きつつ、課題となっている部分を丁寧に改善してください。
3-4.【STEP4】事業承継計画の策定
親族内承継・親族外承継を行う場合は、事業承継計画を策定します。事業承継計画とは、現状や経営目標、課題などを踏まえて、事業承継を完了させるまでの計画をまとめたものです。事業承継に必要とされる5~10年先を見据えた上で、現経営者と後継者の2人で内容を吟味しながら、具体的に作りこむ必要があります。
M&Aを実施する場合は、外部のマッチングサービスに依頼する方法が一般的です。マッチングサービス自体は数多くあるため、サポート内容や料金、実績などを参考に、自社に合ったサービスを選んでください。実際にM&A仲介会社を選んだら、事業承継の目的や希望など、できるだけ具体的に擦り合わせながら、条件に合う企業とのマッチングを進めます。
3-5.【STEP5】事業承継の実行
ステップ1~4でここまで進めてきた準備を基に、実際に事業承継を実行します。事前に定めていた事業承継計画の通りにいかない場合もあるため、状況に応じて修正を繰り返しながら進めてください。事業承継の内容によっては、従業員が納得しない可能性もあるため、社内の様子を見ながら、必要に応じて情報共有や説明を行うことが大切です。
また、「引き継いで終わり」ではなく、後継者が独り立ちできるまでフォローすることで、事業承継後の安定した経営が実現します。
必要に応じて事業承継計画をブラッシュアップ・修正していくことも重要です。社内だけでなく社外でも調整・情報共有をすることで、よりスムーズに後継者が事業を承継し、成長を促すための土壌をつくっていくことができます。
4.事業承継はどこに相談すればいい?よくある4つの相談先
事業承継は、経営者自身での手続きも可能ではあるものの、専門的な知識が必要であるため、なるべく誰かに相談することがおすすめです。
事業承継の相談先としては、下記4つの支援機関があります。それぞれ特徴があるため、自分たちの現状やニーズに合わせて相談先を選ぶことが大切です。
4-1.商工会議所
商工会議所は、個人事業主や中小企業の無料経営相談などを行っている、非営利の経済団体です。各地域に設置されている身近な団体であり、事業承継支援も行っています。
- メリット
商工会議所を利用するメリットは、入会金や年会費はかかるものの、サービス自体は無料で利用できる点です。また、地域の経済事情に精通しているため、ネットワークを生かして悩みの解決に取り組んでくれます。 - デメリット
後継者の斡旋をしてくれるわけではなく、あくまで「相談」のみが中心となります。商工会議所への相談が、事業承継の早期実現に必ずつながるわけではないため、期間に余裕を持って利用するとよいでしょう。
4-2.顧問税理士
自社が委託している顧問税理士も、事業承継の代表的な相談先の1つです。顧問税理士への相談には、下記のメリット・デメリットがあります。
- メリット
自社の内情を把握しているため、相談がスムーズに進みやすい点がメリットです。相続税や贈与税など、税金関係の手続きについても精通しており、事業承継を税の観点から支えてくれます。 - デメリット
税理士の仕事は、あくまで「税」に関する内容であるため、事業承継についての知識やスキルを持っているとは限りません。仮に事業承継について知っていたとしても、対応のレベルには差があり、悩みが必ず解決するわけではないことを覚えておきましょう。
4-3.金融機関
最近は、金融機関でも事業承継をサポートするためのサービスを提供しており、下記のメリット・デメリットがあります。
- メリット
金融に関する専門的な知見から、事業承継計画の策定などをサポートしてくれます。特に取引先の金融機関に相談する場合は信頼度が高いため、安心できる点がメリットです。 - デメリット
基本的には、金融機関自体に事業承継を委託するのではなく、専門家を紹介してもらう流れになるため、場合によっては工程が増えるだけになってしまいます。
4-4.M&A仲介会社
M&A仲介会社とは、M&Aを実施して事業承継をする場合に、後継者探しや引き継ぎをサポートしてくれる会社です。
- メリット
M&A仲介会社を利用するメリットは、専門的な知識やスキルをもって、事業承継が成功するまでサポートしてくれるため、安心して利用できる点です。また、M&A仲介会社が独自のパイプを持っている場合も多く、後継者が早期に見つかることも期待できます。 - デメリット
デメリットとしては、一定の費用が発生することが挙げられます。想像以上に高額な料金がかかる場合があるため、見積もりをもらったり、細かい部分まで打ち合わせしたりすることで、費用を最小限に抑えることがポイントです。
5.事業承継の事例3選
事業承継は、企業の現状や目的に応じて取り組む必要があるため、他社の事例を参考にすることも大切です。ここでは、事業承継を実施した3つの事例を紹介します。
事例1:株式会社五十嵐商会(親族内承継)
梱包・包装資材の卸売・小売を行っている株式会社五十嵐商会では、話し合いを経て、前社長の父から、兄妹の末っ子だった娘へと親族内承継が行われました。事業承継の3年前から経営者としての経験を積み、前任の父もサポートすることでスムーズな引き継ぎが実現しています。
事業承継前には、東京商工会議所のビジネスサポートデスクに相談し、売上減少に関するアドバイスや、引き継ぎのサポートも受けました。
事例2:アイテレコムサービス株式会社(親族外承継)
アイテレコムサービス株式会社の前社長・庄司さんは、当時営業部長だった増西さんの信頼性や堅実な仕事ぶりに注目し、親族外承継を決めました。
前社長の庄司さんが10年かけて引き継ぎの準備をしていたおかげで、株式移行もスムーズに進み、親族外に継承することによる人間関係のトラブルもなかったようです。
事例3:清建株式会社(M&A)
清建株式会社の前社長・戸張さんは、自身の病気をきっかけにM&A仲介会社を利用し、湯本内装株式会社に事業承継を行いました。
M&Aにあたって戸張さんが大切にしたのが、「従業員のその後」です。湯本内装株式会社を事業承継先として選んだ理由は、同業種であり、「従業員のその後を託せる」と感じたことでした。M&A後も、元からいた従業員は1人も辞めておらず、戸張さんは自身の決断が正解だったと感じています。
まとめ
事業承継とは、「人(経営権)」「資産」「知的資産」を引き継ぐことであり、少子高齢化が進んでいる近年は、特に重要性が高まっています。事業承継には、「親族内承継」や「親族外承継」をはじめとした4種類の方法があるため、自社の状況に応じた方法を選ぶことが重要です。
事業承継は、一般的に5~10年かけて丁寧に進める必要があります。さまざまなブランディング支援のサービスがあるため、専門家にも相談しながら事業承継を成功させてください。
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